27巻1号 (2009年6月) |
27巻2号 (2009年9月) |
27巻3号 (2009年12月) |
27巻4号 (2010年3月) |
27巻5号 (2010年6月) |
27巻6号 (2010年9月) |
27巻7号 (2010年12月) |
27巻8号 (2011年3月) |
1.6年分の新聞コーパスを調査した結果,「普通の人」には,以下の(1)~(7)の言説的意味傾向が認められた.(1)<戦争や失政,事故・事件など で,何らかの被害や影響を受ける>,(2)<専門的なことがらについて知識・認識・関心などが足りなかったり,専門的な判断・行動などができなかったりす る>,(3)<新奇・斬新なところがなく,平凡な判断・行動をする>,(4)<常識的な感覚をもち,道徳やモラルを守る>,(5)<心身が健康・健常で, 通常の標準的な行動・生活ができる>,(6)<地道な日常生活を営む>,(7)<特別・特殊な能力,容貌,経験などをもたない> 2.これら7つの言説的意味傾向が生み出し,また,維持していると考えられる社会的コノテーションとしては,(2)(3)(7)からは≪普通であることを 否定的にとらえる≫,(4)(5)(6)からは≪普通であることを肯定的にとらえる≫,(1)からは≪普通であることを同情的にとらえる≫という,評価性 の異なる三つの社会的コノテーションを推定することができる.
3.「普通の人」の社会的コノテーションが多義となるのは,「普通の人」の【何らかの面で,標準的と評価される人】というデノテーションの,【標準的と評 価される】という側面が相対的であることによる.「普通の人」を,「優れた人」としての専門家や非凡な人,個性的な人などと対比したときには,≪普通であ ることを否定的にとらえる≫という社会的コノテーションが生まれ,また逆に,「普通の人」を,「劣った人」としての健康・健常でない人,不道徳な人や犯罪 者,地道な生活を送れない者などと対比したときには,≪普通であることを肯定的にとらえる≫という社会的コノテーションが生まれる.この対立的な社会的コ ノテーションは,「普通の人」のデノテーションにおける「優劣の相対性」にもとづいている.また,「普通の人」を,主として,国家や大企業,政治的・経済 的な指導者層などの「強い人」と対比し,「弱者」ととらえるときには,≪普通であることを同情的にとらえる≫という社会的コノテーションが生まれるが,こ れは,「普通の人」のデノテーションにおける「強弱の相対性」にもとづいている.
以上の現状を踏まえ,本研究では日本語習得研究において広く利用されているKYコーパスに加工を施し,形態素解析ツール「茶筌」で品詞情報を付与したう え,出力結果を人手で修正した.さらに,誤用・言い直しなどの情報を人手でタグ付けしたあと,「分類語彙表」による意味情報を付与した.また,データ作成 作業と並行してタグ付き学習者コーパスを検索するための専用のツールを開発した.
いわゆる敬語,美化語の接頭辞「お」がこの研究のテーマである.言語変化を現場で観察するために,文化庁の世論調査という重要かつ有用なデータについて分 析する.「お」の付く単語の多くが9年後に増加したことがわかった.この傾向は,いわゆる尊敬語の接頭語が機能を変えて,美化語の機能を持ったことを示唆 する.全体のデータを使用頻度により分類したところ,単語に「お」の付く割合がこの9年に増加し,「お」が連続体を形成することが示された.性差は,予想 どおり甚だしい.また,30代主婦の使用率が高いという形で,成人語採用または年齢階梯も見られた.
いわゆる美化語「お」の歴史的増加過程を知るために,更なる研究が必要である.
その結果,擬音語・擬態語の「オノマトペ度」(田守・スコウラップ1999)と 身振り共起率との間には正の相関があること,すなわち,オノマトペ度の高い擬 音語・擬態語ほど身振りを伴いやすいということが明らかになった.これは,擬 音語・擬態語と身振りとの関係に関する新たな発見であり,これによって,擬音 語・擬態語を一括してそれと映像的身振りとの関係を論じるKita(1997)・喜多 (2002)には修正が必要であることが検証でき,同時に,マルチメディア・コー パスを利用した表現行動研究の有用性を確認することができた.
今後,本稿で用いたマルチメディア・コーパスを改善すれば,オノマトペ度以 外にも,様々な観点からの分析が可能となり,擬音語・擬態語と身振りとの関係 はもちろん,その他の表現行動の要素間の関係もより十全に把握できるようにな ると予想される.
Introduction to Syntactic Analysis. A Valency approach, Gerhard Helbig
Theoretische und praktische Aspekte eines Valenzmodells In Gerhart Helbig(Hrsg,) Beitrage zur Valenztheorie
[極性を問わず見られる傾向]
本論文では,(1)「初唐標準」と「開成標準」との漢字字体にどの程度の違いがあるのか,さらに,(2)宋版は「開成標準」の漢字字体をどの程度まで実践しているのか,を論じた.
調査の方法として,HNGで公開されている資料の中から3点の宮廷写経資料と8点の宋版資料を対象とし,開成石経「論語」(以下,「開成論語」)と字体を比較した. 調査の結果,(1)「初唐標準」と「開成標準」との漢字字体の違いは,異なり字体数でおよそ4割程度の違い,延べ字体数で3割程度であり,(2) 宋版は「開成標準」を8割以上実践しているという結論が得られた.